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腰部脊柱管狭窄症:解説1 ―どうして歩けなくなるの?―
椎間板ヘルニアの発症年齢が30代から40代に比べて、腰部脊柱管狭窄症の発症年齢は50代から60代ぐらいの中高年に多い病気です。特徴的な症状として歩いているとだんだん足がだるくなり、長距離が歩けなくなる症状(間欠性跛行:かんけつせいはこう)があります。この他、臀部から足にかけての痛み・しびれ(坐骨神経痛)があります。
今回、歩行と休息を繰り返す間欠性跛行の原因を分かりやすく解説します。
【脊柱管とは】
脊柱管とは脊椎の中で脊髄とそれに続く馬尾神経が入っている管です。脊柱管の構成要素は前方に椎体と椎間板があり、後方に黄色靭帯があります。脊柱管狭窄症とはこの脊柱管が狭くなる病気です。
【症状】
◎ 間欠性跛行
特徴的な症状として、背中を伸ばしては長い距離を続けて歩くことができません。背筋を伸ばして歩くと、足に「だるさ」や「しびれ」が出てきて、歩けなくなります。距離にして200mから300m、時間にして10分程度です。少し休息すると症状が治まり、また歩けるようになります。この様に、歩行と休息を繰り返す症状を間欠性跛行と言います。
◎ 下肢痛
初期には下肢痛はそれほど強くありませんが、狭窄が進行すると、坐骨神経痛が生じます。
◎ 排尿異常と排便異常
脊柱管狭窄症が進行すると尿が出にくくなったり、尿漏れをすることがあります。また、便が出にくくなることがあります。
【脊柱管狭窄症の病態】
脊柱管を構成する椎間板が膨らんだり、黄色靱帯が厚くなって、脊柱管が狭くなる状態です。脊柱管が狭窄すると、その中を通っている馬尾神経が圧迫されます。馬尾神経が障害されると、股周囲や足のしびれ・脱力感・灼熱感が生じます。
日常生活で腰を伸ばして歩くと黄色靭帯が脊柱管内に食い込み、馬尾神経を圧迫します。その結果、足のしびれや脱力感が生じるため、歩けなくなります。逆に腰を前に曲げると黄色靭帯が伸びて脊柱管が少し広がるため、症状が軽減します。このように歩行と休息を繰り返す状態が「間欠性跛行」です。
脊柱管狭窄症のもう一つの症状である坐骨神経痛は、第5腰椎神経根、第1仙椎神経根が圧迫させることにより生じます。腰部脊柱管狭窄症は両側に生じるため、片側だけではなく両側にも坐骨神経痛が生じることがあります。
【治療法】
馬尾神経の炎症が軽減すれば、疼痛やしびれが軽減してきます。神経の炎症を軽減させるために様々な治療を組み合わせます。
◎ 姿勢と体操の指導
腰を反らすと馬尾神経の圧迫が強くなるので、背中を伸ばして歩いてはいけません。症状が軽減するような少し前かがみの姿勢で歩きましょう。足のしびれが出にくくなったら、背筋を維持するために少しづつ背中を伸ばして、歩くようにしましょう。
強い足のしびれや歩行障害がある時は狭窄部位で馬尾神経が炎症のために腫れていると考えられます。このような時に馬尾神経を無理に動かす体操をするとさらに炎症で腫れて、症状が悪化します。症状が強いときに腰を曲げたり、伸ばしたりを繰り返すのではなく、安静にする方がいいでしょう。
◎ リハビリ治療
腰の緊張を取り、血行改善のために、温熱治療・腰椎牽引・マッサージなどが効果があります。
◎ 神経ブロック治療
強い坐骨神経痛がある場合は、神経ブロックが有効です。
◎ お薬
・筋肉などの痛み止め:非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)
・馬尾神経の血行改善薬:プロスタグランジンE製剤
・しびれを伴う痛みや発作的に生じる鋭い痛み:神経障害性疼痛治療薬
・筋肉の緊張をやわらる効果:筋緊張弛緩剤。
・傷んだ神経の回復:ビタミンB12製剤。
【手術は必要ですか?】
手術しないといけない症状が2つあります。一つは馬尾神経の圧迫による排便障害・排尿障害です。排尿は排便に関わる神経は非常に繊細なので早急な手術が必要です。
もう一つは下垂足(足首が上がらない状態)です。足首を挙げる神経は代償が効かないので、完全に麻痺がでると回復は難しいです。このため、手術のタイミングは筋力が低下し始めれば、早急に考える必要があります。
【院長からの一言】
脊柱管狭窄症は馬尾神経の炎症を取ることが大切です。日常生活の姿勢が重要です。ただし、麻痺になると回復が難しいので、専門医の視点から通院の度に細かくチェックしていきます。